原因不明の歯の痛み

歯や歯茎などが痛むため、歯科医院を受診しても、口腔内に病気などのハッキリとした原因が見つからない場合があります。通常、痛みの多くは歯が原因となる歯痛であり、「歯原性歯痛」と呼ばれます。歯原性歯痛は、歯の中の神経や歯を支える歯周組織が原因となって起こる痛みであり、これは歯科治療によってのみ治まる痛みです。また、口腔内にハッキリとした原因が見つからない痛みのことを「非歯原性歯痛」といいます。日本口腔顔面痛学会のガイドラインでは、非歯原性歯痛の原因を次の8つに分類しています。

筋・筋膜性歯痛

筋・筋膜性歯痛は、食べ物を噛むときに使う咀嚼筋や首の筋肉と、これらの筋肉を覆う筋膜の疲労による痛みが原因で起こる関連痛です。関連痛とは、痛みの原因から離れた場所に痛みを生じることをいいます。主に、上下の奥歯に漠然とした鈍い痛みを生じやく、1日中痛む場合もあれば、不定期に痛んだり治ったりする場合もあります。

筋・筋膜性歯痛のもっとも大きな特徴は、筋肉中に「トリガーポイント」(痛みの発生源)と呼ばれるしこりのようなものがあり、5秒程度押し続けると、歯痛が生じてきます。

筋・筋膜性歯痛は、筋肉が慢性的に疲労することで、筋肉の中にしこりができ、トリガーポイントとなるといわれています。場合によって、首や肩の筋肉に関連して歯痛が生じることもありますので、その場合は専門機関に相談することをお勧めいたします。

痛みの対処法として、筋肉のストレッチやマッサージにより血流を良くし、「こり」を解消していくことがあります。薬物療法は、非炎症性であるためアセトアミノフェンを用いますが、非ステロイド系消炎鎮痛剤を選択することで鎮痛効果を期待します。さらに症状の程度によりますが、中枢性筋弛緩薬や三環系抗うつ薬、ベンゾジアゼピンなどを用いる場合もあります。

神経障害性歯痛

神経障害性歯痛は、神経障害性の疼痛が原因で起こる歯の痛みで、主に2つのタイプに分けられます。ひとつは「発作性神経障害性疼痛」といい、原因となる疾患として、三叉神経痛や舌咽神経痛があり、多くは神経と血管の接触によって発生するといわれていますが、脳腫瘍によって発生する場合もあります。その他にも、多発性硬化症による神経痛を原因とする歯痛もあります。普段は痛みを生じないような小さな刺激でも、強い歯痛が発生する症状です。

治療法は疾患に合わせておこないます。薬物療法の他にも、脳神経外科での手術、神経ブロック、γナイフ治療などをおこないます。最初は薬物療法をおこなう場合が多く、「カルバマゼピン」などの抗てんかん薬が使用されます。また、脳神経外科での手術では、神経血管減圧術や腫瘍摘出をおこなうことで改善が期待されます。

もうひとつは、「持続性神経障害性疼痛」です。急性の場合は、帯状疱疹により歯痛を生じます。帯状疱疹の初期症状として、ウイルスが歯の神経まで達すると、虫歯のない歯でも痛みを感じ、数日の間に強い痛みに変わります。その後、周囲の歯茎や顔面皮膚に赤い斑点と小さな水ぶくれが帯状に出現し、刺すような、焼けるような強い痛みを伴います。痛みは持続的に続くことがあります。帯状疱疹の主な原因は、子供の頃に感染した水疱瘡のウイルスです。幼少期に感染したウイルスは、以後何十年も神経節に潜んでおり、高齢や病気により免疫力が低下すると活性化してしまい、帯状疱疹を発症します。

帯状疱疹性歯痛は、ウイルス由来の神経の炎症と考えられているため、対処法として、「塩酸バラシクロビル」、「アシクロビル」などの抗ウイルス薬を用い、炎症にはバファリンのような非ステロイド性抗炎症薬やステロイドを用いることで改善します。

慢性の場合、歯の神経を抜いた後は通常では1週間程度で痛みや違和感はなくなりますが、場合によっては痛みが長引くことがあります。正常な痛みの情報を伝達することができなくなり、歯や歯茎を軽く触るだけでも痛みを生じます。これを「外傷性神経障害性疼痛」による歯痛といい、慢性的な神経障害性疼痛です。歯や歯茎の神経の傷ついた部位から、痛みの異常が脳に伝わることで痛みが生じることがあります。また、親知らずの抜歯やインプラント治療などの手術で、顎や歯に走っている神経が傷ついた場合に、外傷性神経障害性疼痛が生じことがあります。

治療法として、神経障害性疼痛や線維筋痛症に対する「プレガバリン」という疼痛治療剤と、抗うつ薬の一部が第一選択薬とされています。

神経血管性歯痛

頭痛の関連痛として起こる歯の痛みです。主に、片頭痛や群発頭痛の症状の一つとして歯痛が生じることがわかっています。頭痛による関連痛といって良いもので、口やその周囲に生じる最も一般的な神経血管性頭痛は片頭痛です。痛みは歯髄炎とよく似ているため、判別が難しい歯痛の一つです。

神経血管性歯痛は、歯の治療をおこなっても効果はないため、まずは専門機関を受診して、頭痛の治療をおこなうことが必要です。

上顎洞性歯痛

上顎の骨の中にある上顎洞に、炎症や腫瘍があることで起こる関連痛です。上顎洞とは副鼻腔のひとつで、左右の上顎の主に奥歯の上にある骨の中の空洞です。この上顎洞の疾患により歯痛を生じることがあり、これを上顎洞性歯痛といいます。

副鼻腔は風邪などによって炎症を起こすことがあることから、鼻からの影響で起こっている上顎洞疾患の治療は、主に耳鼻咽喉科でおこないます。

心臓性歯痛

狭心症や心筋梗塞、心膜炎などの心臓の病気が原因で起こる関連痛です。他の疾患(動脈解離、心膜炎)から歯痛が生じた例もあります。痛みは発作性に生じ、特に歩行などの運動をおこなうことによって歯痛が生じるという、運動との相関関係が認められます。

これらは迅速に心疾患の治療をおこなう必要があり、心臓の専門機関を早急に受診していただくことが重要です。心疾患と診断された場合の治療法として、抗狭心症薬や抗血栓薬などの薬物療法や、バイパス術などの外科的手術をおこないます。

精神疾患または心理社会的要因による歯痛

不安や気分が落ち込むといった、心理社会的要因が背景にあって起こる歯の痛みです。また、統合失調症や鬱病において身体症状として歯痛が出現することも知られています。これらの精神疾患は、精神科の対応が必要な疾患です。

対処法として、認知行動療法などの精神療法や、「抗うつ薬、抗けいれん薬などの鎮痛補助薬」などの薬物療法をおこないます。精神疾患による歯痛の場合、「痛みをゼロにする」ことを短期的な目標とせず、まずは「痛みとうまく付き合う」ことを目標としながら、時間をかけた専門的治療が大切です。

特発性歯痛

様々な検査をしても原因疾患がわからない歯の痛みを特発性歯痛と呼びます。この痛みは「原因不明の痛み」といえます。歯原性歯痛ではなく、さらに非歯原性歯痛のどの分類にも明確に当てはまらない歯痛です。時間の経過によって症状が変化し、原因が明確になることもあります。

治療方法は、抗うつ薬による薬物療法及び、認知療法を中心におこないます。抗うつ薬については大分県の歯科医院でも処方できますが、副作用などの点から医科と連携がとれる歯科医師による処方が必要になってきます。

その他のさまざまな疾患により生じる歯痛

巨細胞性動脈炎や悪性リンパ腫、肺癌など、疾患が原因で起こる歯痛です。

非歯原性歯痛の検査と診断

非歯原性歯痛を診断をするには、まずは口腔内に虫歯や歯周病などの問題がないかを問診や視診、X線撮影などで確認します。歯や歯周組織に問題がない場合は、8つの非歯原性歯痛の原因にあてはまる症状がないか、詳しい問診や触診、場合によってはCTやMRIなどの検査をして鑑別します。ただし、非歯原性歯痛の検査は、専門医がいない歯科医院ではおこなっていないことがあるため、非歯原性歯痛を疑う場合は、大学病院の歯科口腔外科に問い合わせるか、日本口腔顔面痛学会のホームページを参照してお問い合わせください。

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